臨床指標(クリニカル・インディケーター)とは、病院の様々な機能を数字で表したもので、指標を分析することで医療の標準化につなげるなど、医療機関は自らの現状を把握できます。
さらに継続的に計測・分析することで「自院の診療の質を知り、継続的に改善する」ことを目的とする場合は「医療の質の指標」クオリティ・インディケーターと呼ばれています。
大手前病院は、2015年度より日本病院会のQIプロジェクト(医療の質を継続的に向上させるプロジェクト事業)に参加し、多くの指標を測定し、継続的な改善の「見える化」を目指しています。
日本病院会のプロジェクト参加は、2024年度で10年目になりますが、さらに2022年より(公財)日本医療評価機構の「我が国の全病院を対象に、指標を活用して医療の質を可視化するプロジェクト」にも参加を開始しています。
以下、一般的な臨床指標、クオリティ・インディケーターとして日本病院会「QIプロジェクト指標」、(公財)病院機能評価機構「医療の質向上のための体制整備(可視化プロジェクト)」の指標を示します。
(指標の計測方法などの詳細は、日本病院会ホームページを参照してください)
大手前病院は病床数401床の急性期病院です。
退院した患者さんの入院時年齢分布から病院の特徴がみられます。
*印の年度は、新型コロナウイルス感染症の影響大
横にスクロールして確認することができます。
0歳~ | 10歳~ | 20歳~ | 30歳~ | 40歳~ | 50歳~ | 60歳~ | 70歳~ | 80歳~ | 90歳~ | |
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2018年度 | 40人 | 88人 | 279人 | 330人 | 626人 | 952人 | 1643人 | 2368人 | 1755人 | 344人 |
2019年度 | 33人 | 94人 | 284人 | 370人 | 593人 | 1020人 | 1402人 | 2501人 | 1687人 | 404人 |
2020年度* | 12人 | 68人 | 227人 | 260人 | 521人 | 933人 | 1302人 | 2227人 | 1536人 | 424人 |
2021年度* | 9人 | 78人 | 261人 | 298人 | 515人 | 1004人 | 1258人 | 2154人 | 1657人 | 445人 |
2022年度* | 3人 | 63人 | 265人 | 271人 | 527人 | 939人 | 1203人 | 1933人 | 1663人 | 435人 |
2023年度* | 4人 | 75人 | 322人 | 315人 | 505人 | 918人 | 1146人 | 2051人 | 2002人 | 558人 |
60歳以上の患者の構成割合が特徴的に変化しています
COVID-19の影響なく、2018年度と2023年度を比べると、60歳・70歳代は減少し、それに対して80歳・90歳代がやや増加しています
大手前病院は、一般355床・地域包括ケア46床の病床で急性期から社会復帰に向けた医療と支援を行います。
※新型コロナウイルス感染症の医療への影響は大
大手前病院は、精密検査、手術、入院を必要とする医療と「かかりつけ医師」からの紹介や救急搬送の患者さんの医療を中心に担っています。
医療の質の指標は、主に過程(プロセス)指標と結果(アウトカム)指標の視点から分析できます。他に医療機関の構造(ストラクチャー)指標から見ることもあります。
※指標のなかで参加施設とは、日本病院会QIプロジェクト参加施設です
受けた治療に対する患者さんの満足度を見ることは、医療の質を直接的に計測する指標のひとつです。ただし一部の患者さんの意見であり、一喜一憂することなく真摯な姿勢で取り組むことが必要です。アンケート調査により実施し「満足、やや満足、どちらとも言えない、やや不満、不満」の5段階評価のうち、「満足またはやや満足」と回答された割合です。
QIプロジェクト参加施設の提出は7割程度であり、継続的な調査で自院の現状を理解することができる指標です。大手前病院では毎年1回程度実施することで他の質問と合わせて結果を検証しています。
全退院患者のうち残念にも死亡退院された患者さんの割合です。医療施設の特徴や患者さんの状態などが異なるため、医療の質を直接計測する指標ではありません。救急搬送された場合や主に苦痛を取り除く医療を行っている場合の死亡を除外することで、日常の医療提供体制を客観視することにつながります。
特異的な変化を確認する数値としては利用できることや、算出が容易なことから計測が継続されてきました。しかし病院の特徴や受入患者の背景も異なることより、死亡率単独での改善活動を行うことは難しいという判断より、日本病院会では2022年度で計測を終了しています。
分子 = 死亡退院患者数
分母 = 退院患者数
救急医療の機能を見る指標です。救急車の受け入れ要請のうち、実際の受入数の割合であり、救急医療の機能向上を目的としています。
分子 = 救急車で来院した患者数
分母 = 救急車受け入れ要請件数
QIプロジェクト参加施設の多くでコロナ禍の影響がみられました。大手前病院でも特に2021年度はCOVID-19の受入により減少がみられました。
日本の医療体制は、患者さんの身近な地域で必要な医療が切れ目なく提供されることを目標にしています。
各医療機関は自らの機能に応じた役割を果たすため、互いに「紹介される・する」という方法で地域の他の医療機関と連携を取り合っています。
紹介率・逆紹介率は、その連携の度合いを示す指標です。
紹介率(割合)の分子 = 紹介初診患者数 逆紹介率の分子 = 逆紹介患者数
紹介率・逆紹介率の両分母 = 初診患者数-(休日・夜間以外の初診救急車搬送患者数+休日・夜間の初診救急患者数)
大手前病院では「初診患者に対し、他の医療機関から紹介されて来院または救急患者の割合」の紹介率(割合)はコロナ禍で微増しました。反対に逆紹介率「初診患者および再診患者に対する他の医療機関への紹介した患者の割合」は、2020年度は特に減少しましたが、その後の「紹介する」は落ち着いています。
診療報酬改定に伴い、より連携を推進する観点より計測方法が変更されました。
逆紹介割合の分子 = 逆紹介患者数
逆紹介割合の分母 = 初診患者数+再診患者数
大手前病院の逆紹介割合から積極的な対応がみられます。
入院中は、手術や病気自体や環境の変化などが原因で転倒やベッドなどからの転落が起こりやすいと言われています。
転倒・転落およびその損傷レベル別に事例を分析することで、転倒転落リスクの要因を特定し、予防策を実施する継続な体制につなげる指標です。
分子 = 医療安全管理部に提出された報告書件数
分母 = 入院延べ患者数
大手前病院では、 医療安全管理部(リスクマネジメント委員会)が中心となり、指標の計測・分析および日常業務で実施できる対策を立案する会議を毎月実施しています。
リスクは皆無にはなり得ず、変動の少ない発生率で推移しています。
損傷レベル2以上は「処置や治療が必要」
損傷レベル4以上は「特に重度な場合」
分子=医療安全管理部に提出された報告書件数のうち、損傷レベル2以上の件数
分母=入院延べ患者数
分子 = 医療安全管理部に提出された報告書件数のうち、損傷レベル4以上の件数
分母=入院延べ患者数
褥瘡についての指標は、看護ケアの質評価です。褥瘡は患者のQOL(※)の低下をきたすと共に、感染を引き起こすなど治療が長期におよぶ可能性があります。褥瘡は「床ずれ」と呼ばれ、自宅や介護施設などで発生することもあります。 入院中の看護ケアの評価には、新規に褥瘡が発生した患者さんを把握します。入院時にすでに褥瘡を保有している場合や調査期間の以前から褥瘡を持ち継続して入院している患者さんを除外し、新規に発生した患者数を計測します。
※QOL=生活の質
大手前病院では、医師および皮膚・排泄ケア認定看護師が中心となる褥瘡対策委員会が定期的な回診を患者毎に行っています。
分子=入院後、院内で新規に深さd2以上の褥瘡を発生した患者数
分母=入院延べ患者数
※分母除外 同日入退院患者数入院時すでに褥瘡を保有および継続して褥瘡をもつ患者の入院日数
手術後合併症のうち、手術部位の感染症を予防するため、予防的抗菌薬の使用状況を把握することは指標として必要です。QIプロジェクトでは、特定術式の手術における適切な予防的抗菌薬使用状況を把握するため、以下の各指標の「分子の合計」を各指標の「分母の合計」で割ることで、ケアプロセス群全体を統合的に実施できているかを評価しています。
統合指標(Composite Measures)
ケアバンドルという、有用性が認められた手法を単独でなく束ねて行うことで最大限の効果を得ようとする考えに準じた指標の表現方法です。
手術後に手術部位に感染が発生すると入院期間が延長するなど負担が増加します。 手術開始から手術終了後の一定期間まで血中および組織中に抗菌薬濃度を適切に保つことで予防できる可能性が高くなります。そのために手術執刀開始前1時間以内に適切な抗菌薬を開始する必要があり、その程度を見る指標です。
手術部位感染を予防するために予防的抗菌薬の投与が、必要以上に使用されると耐性菌の発生や患者さんの負担増加につながるおそれがあります。
適切な時期に抗菌薬が投与停止されているかを見る指標です。
手術部位感染症の発生率は、手術方法や部位により違いがあります。予防にはその原因菌を対象とした抗菌薬の使用が必要です。
QIプロジェクトにおいて特定術式の手術に限定して、その術式に適切とされる抗菌薬の使用状況を見た指標です。
分子 = 以下の手術関連指標の分子の合計
分母 = 手術関連指標の分母(特定術式の手術件数)の合計
01 |
特定術式における手術開始前の適切な予防的抗菌薬投与率 分子=手術開始前1時間以内に予防的抗菌薬が投与開始された手術件数 |
---|---|
02 |
特定術式における術後の適切な予防的抗菌薬投与停止率 分子=術後24時間以内に予防的抗菌薬が停止された手術件数 |
03 |
特定術式における適切な予防的抗菌薬選択率 分子=術式ごとに適切な予防的抗菌薬が選択された手術件数 |
分子=以下の急性心筋梗塞関連項目の患者数の合計
分母=急性心筋梗塞で入院した患者数(①~⑦の合計→①~⑦全てプロセス)
01 | 急性心筋梗塞患者における当日アスピリン投与割合 |
---|---|
02 | 急性心筋梗塞患者における退院時抗血小板薬投与割合 |
03 | 急性心筋梗塞患者における退院時βブロッカー投与割合 |
04 | 急性心筋梗塞患者における退院時スタチン投与割合 |
05 | 急性心筋梗塞患者における退院時ACE阻害剤もしくはアンギオテンシンⅡ受容体阻害剤投与割合 |
06 | 急性心筋梗塞患者におけるACE阻害剤もしくはアンギオテンシンⅡ受容体阻害剤投与割合 |
07 | 急性心筋梗塞患者の病院到着後90分以内のPCI実施割合(18歳以上) |
分子=以下の脳卒中関連項目の患者数の合計
分母=脳梗塞(TIA含む)と診断された入院患者数の合計(①・②・④18歳以上)
01 | 脳卒中患者のうち入院2日目までに抗血小板療法もしくは抗凝固療法を受けた患者の割合(プロセス) |
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02 | 脳卒中患者のうち退院時抗血小板薬投与割合(プロセス) |
03 | 脳卒中患者の退院時スタチン処方割合(プロセス) |
04 | 心房細動を伴う脳卒中患者への退院時抗凝固薬処方割合(プロセス) 〔2021年度以降は対象外の指標〕 |
05 | 脳梗塞における入院後早期リハビリ実施患者割合(プロセス) |
糖尿病の治療には運動療法、食事療法、薬物療法があります。
運動療法や食事療法の実施を正確に把握することは難しいため、薬物療法を受けている患者さんのうち適切に血糖コントロールがなされているかを表す指標です。
分子=HbA1cの最終値が7.0%未満の外来患者数
分母=糖尿病の薬物療法を受けている外来患者数
(過去1年間に該当する治療薬が外来で合計90日以上処方されている患者)
分子=HbA1cの最終値が7.0%未満の65歳以上の外来患者数
分母=糖尿病の薬物療法を受けている外来患者数
(過去1年間に該当する治療薬が外来で合計90日以上処方されている患者)
(公財)病院機能評価機構の厚生労働省補助事業に参加した計測結果(抜粋など)
※中央値は参加施設を母集団として算出されたものです
身体拘束は、生活の自由を制限し、また二次的な身体的障害を生じる可能性があるため、やむを得ない場合に行われる行動制限です。つまり安易にひもや抑制帯、ミトンなどの道具を使用して、 患者をベッドや車椅子に縛ったりする身体的拘束は、尊厳と主体性を尊重し、安易に正当化することなく、判断は組織的かつ慎重に行うと認識すべきです。対象の身体拘束には、ベッドを4点柵で囲む場合も含まれ、離床センサーの使用は対象外です。
分子=物理的身体拘束を実施した患者の延べ数
分母=入院患者延べ数
※2024年度は半期分 ※QIプロジェクトは18歳以上
術後肺血栓塞栓症は重篤な術後合併症です。周術期(手術が決定後外来から入院、麻酔・手術、術後回復、退院・社会復帰まで)の肺血栓塞栓症の予防行為の実施は、その発生率を下げることにつながります。
分子=分母のうち、肺血栓塞栓症の予防対策が実施された患者数
分母=肺血栓塞栓症発症リスクレベル「中」以上の手術を施行した退院患者数
広域抗菌薬を使用する際は、投与開始時に血液培養検査を行うことは望ましい行為です。また血液培養が1セットのみの場合は疑陽性による過剰治療となる恐れがあり、 適切な治療の実施には2セット以上行うことが推奨されています。また2014年度の診療報酬改定からは、2箇所以上採取した場合に限り2回算定可能となっています。
分子=血液培養オーダが1日に2件以上ある日数
分母=血液培養オーダ日数
幅広い菌種に効果を有するカルバペネム系抗菌薬に対する抗菌薬耐性菌の出現は、難治症例を増加させ、 世界的な問題となっています。適正な抗菌薬の使用が、耐性菌の発生や蔓延を防止になります。適正使用を推進する取り組みのために、正確な微生物学的診断を行うには、抗菌薬投与前に適切な検体採取と培養検査が必要です。
分子 = 分母のうち、入院日以降抗菌薬処方日までに細菌培養同定検査が実施された患者数
分母=広域スペクトル抗菌薬が処方された退院患者数
術後感染症を防ぐために、抗生物質をあらかじめ投与することを予防的抗菌薬投与といいます。開胸、開腹を伴う手術などは、手術開始直前に抗菌薬を点滴などで投与することにより、術後感染症を抑えることが期待されています。
日本病院会のQIプロジェクトは特定の手術に関してですが、機能評価機構の指標は手術室で行った手術全般に対して計測しています。今後は全身麻酔を施行した手術に限定して行われる予定です。
分子=分母のうち、手術開始前1時間以内に予防的抗菌薬が投与された手術件数
分母=手術室で行った手術件数
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